記事の内容

この記事は、

  1. 統計力学の概説
  2. イジング模型の紹介
  3. 可解なモデルの紹介

を行い、読者は

  • 物理学者の研究手法の一つである可解化の例
  • 平均場モデルは何が嬉しいのか
  • 統計力学の典型的な計算方法

を学ぶことができます。

統計力学

統計力学では、素子一つの状態空間を \(S\) として、 \(S^N\) のような多自由度な系を扱います。

ハミルトニアンを決めて、初期状態を与えると、力学的には運動方程式から \(S^N\) 内での軌道 \(s(t)\) が一つ定まります。 系が以下のエルゴード仮説を満たすとすると、運動方程式が解けないようなハミルトニアンでも状態量の時間平均を計算することができます。これが平衡統計力学です。

\[\lim_{T\rightarrow \infty} \frac{1}{T} \int_{0}^T A(s(t)) = \int_{S^N} ds ~ A(s) \frac{\exp(-\beta H(s))}{Z(\beta)}\]

ここで、 \(A(s)\) が物理量、 \(Z(\beta) = \int_{S^N} ds ~ \exp(-\beta H(s))\) が分配関数です。エルゴード仮説はつまり、どんな初期状態から始めても、その時間平均はボルツマン分布に従う相空間での平均に従うと主張しています。

イジング模型

イジング模型というのは、強磁性体のモデルで \(S=\{1, -1\}\)として、

\[H(s) = \sum_{(i, j)} J s_i s_j\]

で定まるハミルトニアンに従うモデルです。ここで、和は隣接する素子間で取るものとします。 素子のネットワークを一次元格子とした場合は簡単に、二次元格子としたときはすごく難解に、分配関数を書き下すことができ、相転移の有無などが計算されています。 しかし、3次元格子の場合は厳密には解けていません。

可解モデル

3次元のイジングは厳密には解けないが、この模型全般の相転移の有無だけは知りたい。そういう時には、物理学者は似ていて可解なモデルを作ることで理解を深めようとします。 今回の一つのモデルとして、近接がなくなって対称性を向上させた平均場モデルの一種があります。

\[\begin{align*} H(s) = \frac{J}{N}\sum_{i > j} s_i s_j = \frac{N J}{2} (\frac{1}{N} \sum_{i} s_i)^2 + \frac{J}{2} \end{align*}\]

このモデルのハミルトニアンは自己磁化 \(m = \frac{1}{N} \sum_{i} s_i\) を通してしかミクロな状態に依存していません。 これは、モデルの対称性の現れで、自己平均性と呼ばれています。このように、系の対称性を高めることで、巨視的変数で系の状態を記述することができるようになります。

このハミルトニアンの分配関数 \(Z(\beta)\) は、

\[\begin{align*} Z(m) = \exp(- \beta N\frac{J m^2}{2} - \beta \frac{J}{2}) \sum_{s \in S^N} \delta(\sum_{i} s_i - N m)\\ Z(\beta) = \int_{-1}^1 dm ~ Z(m) \end{align*}\]

とかけ、フーリエ変換 \(\delta(\sum_{i} s_i - N m) = \int d\hat{m} ~ \exp(-\hat{m} (\sum_{i} s_i - N m))\) を用いて \(N \rightarrow \infty\) で評価すると、

\[\sum_{s \in S^N} \delta(\sum_{i} s_i - N m) = \int d\hat{m} ~ \sum_{s \in S^N} \exp(- \hat{m} (\sum_{i} s_i - Nm))\\ = \int d\hat{m} ~ \exp(N\hat{m} m) \prod_{i} \sum_{s_i \in S} \exp(- \hat{m} s_i)\\ = \int d\hat{m} ~ \exp(N (\hat{m} m - \ln (2 \cosh(\hat{m})))) \\ \simeq \exp(N (\hat{m}^* m - \ln (2 \cosh(\hat{m}^*))))\]

最終行では鞍点法( \(N\) が十分大きい時、 \(\int dx ~ exp(Nf(x))\) を \(f(x)\) が極値を取るところで近似する方法。ラプラス近似の雑なバージョン)をしました。

これによって、部分分配関数 \(Z(m)\) が

\[Z(m) \simeq \exp(N(-\beta \frac{Jm^2}{2} + \hat{m}^* m - \ln (2 \cosh(\hat{m}^*))) + O(1))\]

と求まり、分配関数 \(Z(\beta)\) が

\[Z(\beta) \simeq \int dm ~ \exp(N(-\beta \frac{Jm^2}{2} + \hat{m}^* m - \ln (2 \cosh(\hat{m}^*)) + O(1)))\\ \simeq \exp(N(-\beta \frac{J(m^*)^2}{2} + \hat{m}^* m^* - \ln (2 \cosh(\hat{m}^*))) + O(1))\]

ともとまります。ここで鞍点方程式は

\[m^* = \tanh(\hat{m}^*) \\ \hat{m}^* = \beta J m^*\]

です。

以上の計算で、分配関数書き下すことができました。特に自己磁化の平均値は 鞍点方程式の解 \(m^*\) であることがわかっているので、逆温度 \(\beta\) が大きいと自己磁化が急速に1に、 小さいと0になる様子がわかります。

まとめ

この記事では、平均場モデルへの緩和を行って、イジング模型の様子を知る例を実演しました。 その中で統計力学では歴史の長い近似方法として鞍点法を紹介しました。今後の記事としては、

  • レプリカ法の解説
  • スピングラス理論の紹介とその応用先
  • 具体的な解析例

などが考えられます。