記事の内容

この記事では

  • 神経科学発端までの歴史の概説
  • 脳の機能局在の紹介

を行い、読者は

  • 機能局在論に至るまでの歴史
  • 機能局在

を理解することができます。

神経科学

人はなぜ物を思うのでしょうか?なぜ人は自分を認識できるのでしょうか?人はなぜ肉体と精神の区別を不意に感じるのでしょうか?

これらは人の肉体の動作原理からは理解できない問いです。筋肉の収縮弛緩の原理は筋肉の動作を、消化活動は内臓のそれぞれで外部の化合物をどのようにして人体を構成する一部に変換しているかを説明します。しかし、各個人は、これらの機能が意識的に制御できないことを誰に教えられた訳でもなく理解しています。

我々が制御できるのは、どのように身体を動かし何を身体に入れるか、そして、どのようなことを考えるか、だけです。ここで、前者は観察によって外部から他人が監視することができますが、後者についてはそうはいきません。神経科学では脳内の活動を観察することによって後者を解き明かすそうと試みます。

神経科学の歴史

人々は誰に言われずとも、頭に性格や思考の秘密が隠されていそうだということには勘付いていたようで、 最初期には頭蓋骨の形から人の性格などが推測できるというような、占いのようなことをやっていたようです。

そのうち、解剖などによって、脳はネットワーク状に接続された神経細胞によって構成されているということがわかってきます。しかし、人間の細胞は破壊と分裂の澱みない流れの中にあることから、微視的にはネットワーク状に構成されていることがわかっても、細胞レベルでは変化し続ける脳がある程度恒常的な機能を実現していることは自明ではないように思われます。ミクロな状態は変わっても、そこに宿るマクロな量は安定してているという意味で、これは熱力学的な現象です。

これに対して、脳機能全体論と脳機能局在論という2つの考え方があります。

  • 脳機能全体論とは、脳の機能は脳のネットワーク全体によって実現されているという考え方です。この性質から、脳の構造を破壊した場合、その破壊された割合が大きければ大きいほど、満遍なく全ての機能が壊れていくと考えられます。

  • 脳機能局在論とは、脳の機能は脳の特定領域によって分散的に実現さているという考え方です。この性質から、脳の構造を破壊した場合、破壊された場所によってある機能はダメになりますが、全くダメージを受けない機能もでてくるということが考えられます。

神経科学の歴史としては、脳機能全体論が支持されてきました。しかし、脳を直接ほじくることなく非侵略的に観察できる技術が進歩し、脳の状態をさまざまなシチュエーションで詳細に観察できるようになるにつれて、脳機能局在論が実際の脳の動作に適合しているようであると考えられるようになってきました。

現代では、脳は組織化された密な機能単位と、それを接続する相互作用によって理解できると考えられています。この考えに基づくと、身体の活動を機能単位(筋肉の弛緩、消化, etc)で理解できたように、人間の機能を脳内の活動と対応させて理解できることになります。実際、ある活動を行うとき脳のこの領域が活動的であることから、この活動において必要な情報処理はこの領域で行われているという、人が持つ機能の分類と脳のマッピングが精力的に行われています。また、機能単位同士が強調して動作するという現象に性格や感情といった、より高次元な機能が実現されているという方向性で日夜研究が行われています。

まとめ

脳機能について、脳全体が全ての機能を担っているとみなす脳機能全体論、脳の特定の領域が特定の機能を担当する脳機能局在論の2つの考えを紹介しました。

今後の記事としては、

  • それぞれの考えが生じるに至った実験の紹介
  • 現代的な考えを代表する実験の紹介
  • 数理的なモデルに対する揺らぎ耐性の紹介

などが考えられます。

僕の考え

多くの人間の脳には、言語を理解する領域があります。この領域は、幼児期に大人が発話する様子を見て学習されますが、この学習には文法書は出てきません。 帰納的に学習が行われます。しかし、何でもかんでも帰納的に彼らが理解する訳ではなく、言語学習というのはまったく特異な例であると考えられます。 この動作はまるで、人間の脳内には言語学習の基礎回路があるのではないかと思わせるほどで、チョムスキー標準形のチョムスキーさんたちも当時そういっていたようです。

このように、脳の構造にはあらかじめ、ある雛形が存在しているという見方ができることから、脳の研究は主に、

  1. 脳の動作原理とその限界
  2. 脳の学習の方法とその雛形依存性
  3. 生物学的な人の脳内の雛形が遺伝していく様子の解明

というような分野に分かれると考えられます。1は脳内の情報処理過程を詳細に観察する実験と、そこから数理モデルへと帰納し、その性質を調べることにつきます。2は初期状態と学習アルゴリズムの話として実験と理論が双方進むでしょう。3は発生の研究によって進むでしょう。

情報処理性能とは何か?モデルへの揺らぎ耐性とは何か?

こういった問いへの解決が今後の進む道というのも悪くないなと思いました。