情報学徒のための神経科学2: 神経細胞と神経回路
記事の内容
この記事は
- 脳を構成する細胞の1つである神経細胞
- 神経細胞内で刺激が伝達するメカニズム
の紹介を行い、読者は
- 現状支配的な、脳を単純な素子の複雑な結合で捉える姿勢の根拠
を理解できます。
脳を構成する細胞
脳を構成する細胞は主に2つあります。
- 神経細胞
- グリア細胞
グリア細胞は内部で興奮的な電気応答を行わないと考えられているため、主に神経細胞の支援を担当していると考えられています。
神経細胞
神経細胞は、
- 樹状突起
- 細胞体
- 軸索
で主に構成されています。 参考になるサイト
樹状突起は、情報の受容の役割があり、他の神経細胞の軸索終端から出てくる神経伝達物質と呼ばれる特定の化学物質を受けとり、それに基づいてイオンを取り込んだり放出したりして、細胞内部の電位を変化させます。
神経体は、神経細胞の核を含む細胞本体です。
軸索は、情報の伝達の役割があり、細胞内の電位が安定な電位(静止膜電位)よりも十分大きくなった時、巨大で瞬間的な電位変動を引き起こし、軸索終端に向けて放出します。
神経細胞の細胞膜にはNaイオンやKイオンを通す開閉可能な穴(イオンチャンネル)があり、これらを開閉することで特徴的な信号伝達を可能にしています。
信号伝達のふるまい
神経細胞内で刺激は、樹状突起 -> 軸索 -> 軸索終端 へと伝達されます。
基本的に、神経細胞内は外部に比べて
- Naイオン濃度が低い(約10分の1)
- Kイオン濃度が高い(約20倍)
となっており、この濃度差を利用してイオンを動かしながら作動しています。
信号伝達は
- 樹状突起に外部の神経細胞からの神経伝達物質がひっつく
- 樹状突起でひっついた神経伝達物物質を利用して、細胞内にイオンを出入りさせる(細胞の電位を下げたり上げたりする)
- 細胞内の電位が静止膜電位に比べてある程度大きくなると、軸索丘で一気にNaイオンが取り込まれ、活動電位が生じる
- 軸索丘から軸索終端へ、高いイオン濃度が伝達されていく(その過程で膜電位を高く保つ機構や高速に伝達させる機構がある)
- 軸索終端で高い膜電位によって神経伝達物質が作られ、他細胞の樹状突起付近に放出される
のようにして実現されます。
この時、伝達される情報は活動電位というパルス情報であることに注意してください。脳内では、連続時間上で生じるパルスの系列で情報を伝達していると考えられています。活動電位の論文等ではこのパルスの系列をガウシアン窓などで平滑化し、連続な線にし、パルス密度に変換したものが表示されることが多いです。
シナプス可塑性
ここで、シナプスとは、神経細胞と神経細胞の神経伝達物質で繋がっている部分のことを指し、神経伝達物質を放出する細胞をシナプス前細胞、受け取る細胞をシナプス後細胞、神経細胞間の隙間をシナプス間隙と呼びます。 シナプスで信号が伝達されると、その痕跡がシナプスに残るという仮説がシナプス可塑性と呼ばれます。その痕跡から何らかの形で、シナプスでの信号伝達の効率を変化させることで神経細胞のネットワークが自律的に変化し、独自のネットワークを成熟させるというのがその主張です。
ニューラルネットワーク
このように現状理解されている神経細胞の振る舞いでは、
- 各神経細胞が活動電位を生じる敷居値
- 各神経細胞が活動電位により生じる神経伝達物質の量と、シナプス間隙での伝達効率
- 神経細胞の神経伝達物質の到達関係で作られるグラフ
によってパラメタ付けられたモデルでその振る舞いが再現されると考えられます。
この最も単純なモデルとして2,3に注目し、重み付けられた素子のネットワークとして神経回路を模倣したのが、ニューラルネットワークです。 活性化関数が軸索丘、重み付き和が細胞の電位に対応しますが、詳細な対応が取れるという訳ではなく、あくまで模倣した時、いい学習則が構築でき、素晴らしい性能が出たというモデルです。
より忠実に表現したモデルとしては、位相振動子のネットワークモデルなどが昔からあります。
まとめ
神経細胞のネットワークとして現状脳は解釈されており、ニューラルネットワークはその単純化したモデルであるということを紹介しました。 さらに、脳内では情報はパルス系列として表示されていることから、厳密な対応が取れる訳ではないことを見てきました。
今後の記事としては
- 一つの神経細胞の振る舞いを実現する数理モデル
- 具体的なシナプス可塑性のメカニズムについて
- 膜電位の伝達の詳細な紹介
などが挙げられます。
僕の考え
学んでみて思っていたよりも神経細胞のネットワークとニューラルネットワークは違うものであることがわかりました。しかし、グリア細胞の役割やたくさんのイオンチャンネルの役割といったまだ完全には理解されていない部分の多い領域であるため、思い切った簡略化やモデル化が本質をつかむためには大切だと感じました。
パルス系列で表される情報がどのように理解可能かについては様々な方法がありますが、それらを検討し、パルス系列の情報学を構築するのも悪くないなと思いました。