情報学徒のための神経科学3: 遺伝子が与える影響
記事の内容
この記事は
- 遺伝子の生物の行動への影響の紹介
を行い、読者は
- 生物の行動の全てが環境要因で決まる訳ではないこと
を理解できます。
遺伝子
生物は細胞でできており、ある個体を形成する細胞はすべて同一の遺伝子を共有しています。このような共有が可能な理由は、 分裂により生まれた全ての細胞が共通の母細胞、受精卵を持っていることから生じます。
しかし、各細胞は同じ遺伝子を共有はしていますが、その役割は異なります。その役割への分裂を分化と言います。 分化によって、各細胞は遺伝子のデータベース中から特定のタンパク質のみを合成するようになり、生体内での役割を果たすようになります。 この過程を発生と言います。
興味深いことに、人間と実験動物の染色体はほとんど同じであることがわかっています。これも、生物進化が共通の祖先を持つことに起因していると考えられます。
生物個体の固有性
ここで、生物は一つの受精卵から発生したのであるから、遺伝子のみが生物個体のありようを決めているのではないか?という疑問が生じます。 しかし、経験上そうではないことがわかりますよね。生物個体は環境からも影響を受け成長するため、一概に遺伝子のみで決定されるとは言えません。
僕のような皆平等という意識が強い人はそうだと思うのですが、人間の性格や嗜好、行動パターンには環境的な要因が大きく、遺伝子で説明できる、つまり生まれながら運命的に定められた要素はほとんど存在しない、という考えがあります。生体の固有性はその生体が生きてきた経験や、知恵、性格によって定められる、生まれによらない性質だと信じる気持ちです。この信念は、つまり人間によって言えば、経験により可塑性から変形してきた脳の構成によってのみ、固有性が示される、と言い換えることもできます。
遺伝子の行動への影響
しかし、生物の行動パターンにはその遺伝子が関わっているということが、入念な実験によって示されています。
まず、統合失調症の親族が共有する遺伝子割合的に近い人ほど、統合失調症に罹患しやすいという統計データがあります。一卵性双生児の場合、姉が統合失調症にかかったという条件のもとで妹が統合失調症になる割合は五割近くに上るようです(ほんまか???)。
また線虫の実験では、シャーレ内に餌がある局所的なエリアを2つ用意し、その片方に線虫の集団を配置したところ、一部の線虫はもう片方の餌エリアまで移動するという行動を取ることがあったのに対し、他の線虫は元の餌エリアにとどまり続けました。そして、この2つの遺伝子を比較し、十分優位な相関が見られる部分を探索したところ、単一の遺伝子forの活動レベルによって分類できることがわかったのです。この遺伝子のよってコードされているタンパク質の差によって説明できるところまで調査されています。
他にも、生物の概日周期についても調査があり、一群の遺伝子より概日周期のずれや、消失などを再現できるという実験報告が上がっています。
以上のように、神経細胞のネットワーク構造だけでは説明できない、遺伝子による脳への影響は多岐に渡ることが想像できます。
まとめ
ニューラルネットのようなモデルには取り込まれていない、遺伝子による行動パターンへの影響について紹介しました。
今後の記事としては、
- 概日周期への遺伝子の影響についての詳細な解説
が挙げられます。
僕の考え
遺伝子は特定のタンパク質の作り方をコードしていることから、その欠損や変化は生物が持つ機能への大きな影響を与えることは、 落ち着いて考えると当たり前な帰結に感じました。
しかし、遺伝子レベルで考えることは生物全体を捉えることになってしまい、あまりにも広すぎる研究対象ではないかという不安感も持ちます。 神経細胞内での化学物質のやりとりだけをみることで、その生物の行動を説明可能なのかどうかについて興味が湧きました。